津地方裁判所上野支部 昭和25年(ワ)59号 判決
原告 岡三証券株式会社
被告 風呂矢貫一
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は原告に対し金四千八百円及び之に対する本件訴状送達の翌日より支拂済迄年六分の割合による遅延損害金を支拂うべし、訴訟費用は被告の負担とすとの判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求原因として、原告は本訴状肩書地に本店を、上野市車阪町に支店を有し証券取引法により証券取引委員会に登録した証券業者であるが、昭和二十五年七月十七日被告に対し、
(一) 帝国石油株式会社株式二百株を一株につき金八十二円五十銭の値段で総額金一万六千五百円にて、
(二) 東京芝浦電気株式会社株式一百株を一株につき金四十七円の値段で総額金四千七百円にて、
合計金二万千二百円にて賣渡す契約を結び、即日右賣約株式の買入手続を爲し、同年七月二十六日右約束の東京芝浦電気株式会社株券百株分が、又同年八月一日同上帝国石油株式会社株券二百株が何れも原告会社上野支店に着荷したので、同支店店員中川隆勝は、同年八月四日右株券全部を携へ被告方へ赴き、同被告に右現株を示し之を提供して代金の支拂を求めたところ、被告は現株の持参が遅れたとの理由で受領を拒絶し代金の支拂を爲さず、よつて原告会社上野支店長北村善七は同年八月十日書面を以つて被告に対し一両日中に再度中川隆勝を被告方に現株持参の上遣すべきにより右株券の引取り及び其の代金の支拂を爲され度、且つ若し株券の受領を拒み代金の支拂を履行爲さないときは其の不履行を理由として、被告との前記株式賣買契約を解除すべき旨予告の意思表示の書面を発したところ、該書面は同日被告に到着したるに拘らず、被告は翌八月十一日右支店長宛書面を以つて右賣買契約は昭和二十五年七月二十日解除せられている。再契約をしても昭和二十五年七月二十七日解除せられているから、履行の意思がない旨の通知を発し該書面は同月十二日原告の同支店に到着した。因つて本件の賣買契約は前示原告の條件付予告解除の意思表示により同年八月十二日解除せられたのである。仍つて原告会社上野支店は同年八月二十二日原告会社大阪本店に対し前記各株式の賣却を委託した結果、
(一) 帝国石油株式会社株式二百株を一株につき金六十九円の値段で轉賣し其の総代金一万三千八百円から正規の手数料金五百円を差引き其の手取金一万三千三百円を得、
(二) 東京芝浦電気株式会社株式百株を一株につき金三十三円の値段にて轉賣し、其の総代金三千三百円から正規の手数料金二百円を差引き其の手取金三千百円を得た。
仍つて同被告が本件賣買を履行したなれば同支店が得べかりし総代金二万千二百円と同被告の不履行の爲同支店が其の株式を轉賣して得た総代金一万六千四百円との差額金四千八百円は被告の不履行により原告の蒙つた損害金であり、被告に於て之を賠償する義務あるものと言わなければならないから、原告は被告に対し金四千八百円及び之に対する本訴状送達の翌日より支拂済迄商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支拂を求むる次第であると述べ、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>
被告は主文同旨の判決並に被告敗訴の場合担保を條件として仮執行免除の宣言を求め、答弁として、被告は原告会社上野支店元店員中森栄三と懇意にして同人より原告会社は大阪に本店を有し、津、松阪、四日市、宇治山田、上野市に各支店を持ち毎日連絡員により株式の受渡しをしている爲取引が非常に速く出來ることを聞知していたのと、又昭和二十五年七月十七日原告会社上野支店店員中川俊夫も之のことを申して居つた。原告と被告の取引きは本件が始めてであるが、昭和二十五年七月十七日被告は電話により原告会社上野支店へ株式を買いたいから被告宅に出でることを申入れたところ同日原告会社上野支店の店員中川俊夫が來たので、即日帝国石油株式会社株式二百株を一株につき手数料を含めて金八十二円五十銭の値段で、又東京芝浦電気株式会社株式百株を一株につき同上四十七円の値段で、総計二万千二百円で株の受渡は三日間で出來ると謂う店員中川俊夫の言を特に信用して申込んだところ右中川俊夫が之を承諾し、且つ代金は株式が着荷次第支拂うこととして賣買が成立した。被告が元來三日と謂う短期間を定めたのは賣買目的の株式は手持ちにする考えでなく上れば早く轉賣して利益を得べく下落すれば轉賣を速くして過大な損失を防止する考えであつて右の中川俊夫も之を承知していたのである。
然るに契約履行の期限である同年七月二十日が過ぎても原告から何の連絡もなかつたのである。朝鮮動乱に引きつゞき昨今の如く株式相場の変動甚しく低位株であつても数日中に株價が数十円も上下することが珍しくないので、其の履行期日は賣買の性質上契約の要素を爲すもので、原告会社が履行期日迄に契約株式の受渡しをしなかつたから、履行期以後に於ける目的株式の市價如何に拘らず、被告は賣買を爲した目的を達することが出來ないから、其の期限の経過と共に本件賣買契約は法律上当然解除になつたものと考えていた。原告会社当時の上野支店長北村善七は被告の旧友である関係上、法律上は右の如く契約は解除になつているが、再契約しても同年同月二十七日頃迄に受渡しが出來るなら買つてもよいと考えていたが何の連絡もなかつたので忘れて居つたところ、昭和二十五年八月四日契約の日より実に十九日目に突然原告店員中川俊夫が同株券を被告方に持参して提供すると同時に代金の支拂を求めたので、契約期間が経過して解除になつているからと言うて受領を拒絶して代金を支拂わなかつたのであるが、原告は同年八月十日書面を以つて同契約の履行催告並に不履行の場合に於ける條件付の解除の予告を通知して來たので、被告は其の翌日である同年八月十一日契約解除後の催告は効力がないからとの理由で催告拒絶並に契約解除通知を原告宛に出したのである。仍つて本件賣買契約は原告主張の如く昭和二十五年八月十二日に解除になつたのでなく同年同月二十日遅くとも同月二十七日に原告の不履行により解除になつたのである。被告は本件賣買の履行期間は三日の短期間であるし、又値段も翌日の新聞に載ること故原告を信用して契約したもので原告の言うが如き賣買報告書等は受取つても居らんし、又見たこともないと述べ、被告は商人でないこと、被告より特に契約解除の意思表示をした事実はないと述べた。<立証省略>
三、理 由
昭和二十五年七月十七日被告が原告より、一帝国石油株式会社株式二百株を一株八十二円五十銭替にて、二東京芝浦電気株式会社株式百株を一株四十七円替にて買受ける契約の成立したこと、昭和二十五年八月四日原告より被告に対し右株式計三百株を提供して代金の支拂を求めたるところ、被告に於て其の受理を拒絶し且つ代金の支拂を拒んだこと、昭和二十五年八月十日原告より被告に対し事実記載通りの履行催告並に條件付予告解除の通知を爲し同日右通知が被告に到達したることは当事者に爭いのないところである。原告は右の賣買は履行期の定めのないものであると主張するに対し、被告は今頃の朝鮮動乱以來株價の変動が特にはげしく本件賣買当時は低位株すら株價が数日中に数十円も上下することがあり、被告に於ては本件の株を買入れ手持にして置く考えがなく、轉賣が其の目的であつたから、株價が上ればよいが下れば短期間に莫大な損害を蒙むる虞れがあつたので、特に三日間と謂う期間を定めたもので、それは單に履行期を定めたと謂うに止らず、履行期を特に重要のものとする意思表示をなし、原告の代理人なりと謂う中川俊夫も之を承諾したもので、所謂定期賣買である旨抗爭するにより案ずるに、株式の賣買そのものは商法第五百二十五條、民法第五百四十二條に言う契約の性質による定期契約ではなく、又株式賣買に於ける履行期日を当事者の意思表示により三日間と定めたからとて必ずしも右の定期契約なりと言い得ないが、其の履行期を定めた動機、理由が其の定めた期間内に履行なくそれ以後の履行によつては契約の目的を達すること能わざる事由をも合意の内容となした場合に之を定期行爲なりと解し得べく、而して証人風呂矢成の証言と成立に爭いのない甲第二号証の記載、証人風呂矢成の証言により認め得る甲第三号証、甲第四号証(賣買約定案内書と題する書類にして賣買成立の際原告より被告に交付したと主張する書類)が被告に交付せられていない事実、本件口頭弁論の全趣旨、朝鮮動乱の突発が昭和二十五年六月下旬で本件契約は同年七月十七日であつたと言う事実を綜合して考えると、本件賣買は被告に於て昭和二十五年七月十七日より三日間の履行期を特に重要のものとし右の期間内に必ず目的株式の受渡のあることを期待し、履行期以後の提供によつては其の目的を達し得ざることを原告代理人中川俊夫に申入れ、同人は之を承諾の上本件株式の賣買契約が成立した事実を認め得るから、本件は結局被告主張の通りの定期賣買なりと認む。右認定に反する証人中川俊夫の証言は信用し難い。被告は昭和二十五年七月二十日よりなお一週間は再契約の上受取る考えであつたがこの再契約の機会なく契約成立の日から十九日を経過した同年八月四日に到り突然原告が被告に株券を提供したので、契約の目的に反すると言う理由で受領を拒んだものであると謂うのであるが、前記認定の通り、本件賣買契約は履行期に重点を置いた定期賣買である以上被告が原告に爲した右八月四日の提供を拒むのが当然であつて被告に何等不履行の責なく、從つて被告に不履行あることを前提として爲した原告主張の條件付予告解除は其の効力なく有效に契約解除のあつたものとして求むる原告の履行に代る損害賠償の請求は、被告側からの解除の主張が理由ありや、又商人間の賣買なりや否やの判断を俟たず、原告の請求は之を失当として排斥する。仍つて民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 稻森健次郎)